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アルゼンチンタンゴのコンペとは

アルゼンチンタンゴコンペティションについてざっくりと解説します!

 

 

はじめに 

先日、Chique Tango Championship(チケ・タンゴ・チャンピオンシップ)にて優勝致しました。今回は国内発のオンラインコンペで、主催者と選手と審査員のみが会場に集まり、観客は全てオンラインでzoom観戦という形でした。オンラインも良し悪しですが、タンゴを知らない同僚や、離れた場所に暮らす友人に見てもらう良い機会なので、個別に案内を送り、観戦していただきました。

 大会が終わり、一息ついてふと。このコンペ、初めて見る人にはわからないことが多すぎる!「何を審査しているの?」「ルールは?」「誰が順位を決めているの?」「とりあえず友人が出ているから投票しておいたけど、他にはどんな人が出ているの?」etc etc,,,, 

というわけで、タンゴを知らない人、知っているけどコンペが何なのかわからない人向けの記事を書きます。

※コンペ・・・Competition, Championship (英語) 、Competencia, Campeonato (スペイン語) 、コンクール、競技会、大会、、、様々な呼び名がありますが、ここでは「コンペ」に統一します。

www.chiquetangochamp.com

 

アルゼンチンタンゴのコンペについて

アルゼンチンタンゴとは何か、についてはまた別の機会に記事にします。

コンペにはざっくりと分けて公式戦と非公式戦(のような括り)があります。

公式戦とは、毎年8月にタンゴの聖地であるアルゼンチンの首都ブエノスアイレスにて開催される世界大会(Mundial de Tango)、及びそれに先立ち各地で開催される地区大会のことを指します。日本では毎年6月頃に東京でアジア大会が開催されており、近年はマレーシア、中国、韓国などでも各地区大会が行われています。各地区大会の優勝者は世界大会のシード権を与えられます。

公式戦以外にも、各地のタンゴコミュニティやタンゴスタジオが主催する非公式戦は世界中で開催されています。今回のチケカップは、「チケ」という東京四谷のタンゴスタジオが独自に開催した非公式戦です。 

※あくまでも、世界大会およびその地区大会を「公式戦」とした場合の対比です。タンゴ自体がスポーツではないので、ランクがついたりするわけではありません。 

 

出場資格

出場資格は大会によりさまざまです。公式の地区大会では、該当地域のパスポートを所有しているか3年以上在住していること、などが条件となります。世界大会の予選には実は誰でも出場することができるので、観光旅行のついでに出場するペアもいます。ペアであることが唯一の条件と言ってもよいかもしれません。プロ・アマという括りも制限もなく、年齢制限もありません。2019年の世界大会では99歳の出場者もいらしたようです。

世界タンゴ選手権に99歳で出場 観客から喝采 写真15枚 ファッション ニュースならMODE PRESS powered by AFPBB News

 

種目とルール、審査基準

公式戦の種目には、ピスタ(サロン)部門とエセナリオ(ステージ)部門があります。両種目ともプロとして活躍するベテランのダンサーが招待されて点数をつけます。

ピスタ部門

ピスタ(西:Pista)は英語だとTrackなどと訳されるので、おそらくダンスフロアを反時計廻りに動くLOD(Line of Dance)のことを表わしているのかなと思います。部門の最大の特徴は、決まった振付がなく即興で踊る点です。タンゴ自体はソーシャルダンスとしてダンスパーティの中で友人同士又は見知らぬもの同士が社交を楽しむところから発生している(諸説あるのでwikiって下さい)ので、即興が基本です。男性がリードし、女性がフォローします。会場の広さにもよりますが、世界大会では大体12組程度が舞台上で円を作り、反時計回りに進んでいきます。各選考(予選、準決勝、決勝)で3曲ずつ踊りますが、選曲は踊りはじめの直前にアナウンスされます。一般的にはリズミカルなアップテンポの曲、スローテンポの曲、その中間の曲で構成されるので、その三曲を踊り分ける必要があります。ルールとしては一般的には以下のようなものがあります。

・抱擁(英:Embrace,西:Abrazo)の形を崩してはいけない

・フロアを反時計回りに進み、後ろのペアの進行を妨げてはいけない

・両足が床から離れてはいけない。ジャンプ禁止

・足を高くあげてはいけない

 審査基準は主に下記の通りです

・音楽に合ったステップ、動きをしていること

・ペアの一体感があること

公式戦以外では「ワルツ」や「ミロンガ」と呼ばれる種目もありますが、曲のカテゴリが異なるだけで、ルールや審査基準は「ピスタ部門」とほぼ同じです。

2019年世界大会決勝の動画がこちら。3:55くらいから曲紹介、4:21から3曲続けて踊ります。実はこの中にこの年のチャンピオンカップルがいるのですが、正直見分けがつかないと思います。どのカップルにもそれぞれの美学と音楽性があり、評価は審査員の好みとその年の流行り次第と言っても過言ではありません。興味のある人は世界大会予選(Clasificatoria)を見ると、やはりある程度技術の備わった人が決勝に進んでいることがわかります。

www.youtube.com

 

エセナリオ部門

「エセナリオ(Escenario)」は英語のStage、いわゆるショー的な要素をもつ「見世物」としての踊りです。各組が予め曲を選んでそれに合わせた振付を踊ります。ピスタよりも自由度が高く、部分的に抱擁を離すことも可能で、足を高く上げたり、男性が女性を持ち上げるリフトも可能です。もちろん、タンゴのリードフォローの基礎ができているほど評価は高いですが、クラシックバレエなど他のダンスの技術を持った人が派手な振付をこなして上位に入ることも珍しくありません。ルールも審査基準もあるんだか無いんだかわからないようなもので、年によってアクロバティックな高難易度技を繰り出す選手が勝ったり、タンゴの基本ステップを丁寧にこなす選手が勝ったりとバラバラな印象です。世界大会の予選では車椅子での出場者や、途中で歌を歌う出場者もいて、かなり盛り上がります。

2015年のチャンピオンの動画がこちら。

 

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どんな人が出るの?

出場資格のところにも書きましたが、プロアマの区切りなく、初心者からプロの先生まで出場します。ただし、一度チャンピオンになった人は翌年以降同じ種目では参加しないことが多いです。ルール上では参加可能ですが、不思議とチャンピオンはコンペ出場を辞めてしまうことがほとんどなので、「世界大会連覇!!」というのは聞いたことがありません。

一般的にはピスタ部門の方が敷居が低く、アマチュアのタンゴ愛好家が参加しやすいと思います。ステージ部門では特に男性がかなり身体を鍛えていないとリフトが出来ないので難しく、女性も他のダンスやスポーツの経験者でないとなかなか動けません。ただし、敷居の高さと難易度は別の問題で、どちらが簡単ということは一概には言えません。ピスタ部門は間口が広い分母数も多く、2019年の世界大会ピスタが500組、エセナリオが70組程度だったと記憶しています。

 

タンゴコンペの経済効果?

多くのコンペでは出場料を支払う必要がありますが、世界大会は出場無料です。ブエノスアイレス市の公共事業だそうで、毎年8月の約一カ月間は大会の他にタンゴのワークショップがたくさんあり、お祭り状態です。世界を飛び回る有名ダンサーもこの時期だけはブエノスアイレスに集結します。そして世界各地からタンゴファンがブエノスアイレスに訪れ数週間を過ごすので、それなりの経済効果があるのでしょう。地区大会は有料の場合が多いですが、やはり各地から人が集まります。東京のアジア大会にはアジア圏のコンペティターが集結し、東京在住の人が韓国大会や中国大会に遠征することも珍しくありません。ヨーロッパも南北アメリカも同様です。

 

なぜコンペに出るの?

コンペに出る理由は人によってさまざまです。自分は5年ほどタンゴを続けていて、上達し続けるべく練習やレッスンを重ねています。コンペに出場することは一つのベンチマークで、期限付きの目標を持つことで集中して自身の課題に取り組むことができます。今回は新しいペアで出場することを決め、準備期間が1カ月と短かったため、「コンペで結果を出すこと」のみに絞りトレーニングしてきました。ただ漠然と「上手くなりたい」と思って練習してるときと違って時間が限られている分、優先順位をつけて課題解決に取り組みます。

 ・・・と書いていますが、実際には思い通りにいかないことが沢山沢山あります。そのプロセスも含め、今回のコンペでは多くを学べたと思います。 

最後になりましたが、確かな技術力で素晴らしいリードをしてくれたパートナーのエセキエル・ゴメス(Ezequiel Gomez)、ご指導いただいた諸先生方、観戦してくれた皆様、朝ご飯を作って送り出してくれた夫、いつも応援してくれるタンゴ内外の友達と家族、そして当コンペ主催のスタジオChiqueの皆様には感謝しきれません。

 

ものを書くのが苦手な私ですが、今後もタンゴの魅力を伝えられるような記事を続けて投稿していけるように頑張ってみます。